デリヘル嬢待ち
僕はこの時間がとても好きだ。ホテルに送り届けたデリヘル嬢を車の中で待つ時間。この間も給料が発生していると考えるだけでわくわくする。なんたって、眠りこけてしまわない限り何をしてもいい自由時間だからだ。人によっては持ち場を離れて買い物する人もいるらしいが、まぁそれは普通NGだ。僕もそれはやらない。僕がやることといえば小一時間煙草を吸いながら、どことなく退廃的な夜の街の雰囲気を味わう。要するに外に出るだけ。これで十分リラックスできるのだ。雑誌を読む人もいるらしいが暗闇での読書は好まない。
話を戻そう。そう、僕はレイをホテルまで送り届けていたのだ。そして今レイはホテルの中にいて接客をしている。僕はそれを待っているというわけだ。野球選手あー君の年俸の話をしていたが、それからすぐに目的地に着いてしまった。僕はなんだかもやもやしている。レイが10億の大金をもらっても店はやめないと言い出したからだ。
「一体どういうことなんだ…」
火のついた煙草を空の缶コーヒーのふちに押し当てた。火はすぐに消えるかと思ったが、なかなか消えなかった。白い煙が上る。僕はただそれを眺めていた。
僕の名は石田あきら。どこにでもいるキモオタ40歳デリヘルドライバーだ。パチ屋をクビになった。そのため「男の風俗求人サイト」という求人サイトに載っているお店に電話し、見事デリヘルドライバーとなった。レイに聞きたいことがありもやもやしているのだが…。
お金について
「普通に考えてそうだよな」
僕は出来の悪い頭で考えた。デリヘル嬢になること。そう。なりたい人は100%お金儲けが理由だ。僕はそう思っていた。しかし、これが違うというのだろうか。
僕はひどく混乱した。
「仕事ってそういうもんだろ」と思った。
この夜中にそこで道路工事しているおっちゃんも、疲れた顔でコンビニバイトしている大学生も、トイレ掃除のおばちゃんも。
何が目的だ?お金だろ?
どう考えてもそうだとしか思えない。
だってさ、例えばあそこの道路工事しているおっちゃんにさ、10億あげると言えば喜ぶだろう。きっとそのまま仕事をやめるだろう。別にこれは何も変なことではない。僕だってそうだ。
僕もお金が欲しいから仕事をしている。クビになったパチンコの仕事もそうだ。あのときは今よりも仕事として劣悪な環境だった。耳をつんざくようなジャラジャラ音を聞きながら、たばこ臭いフロアに一日中いるなんて、無給ではとても務まらない。民度だってとても低い。訳の分からない理由でお客さんにしょっちゅう怒られる。
買ってきた煙草の種類が違うと顔に箱ごと投げつけられたこともあるが、僕は切れなかった。ただこう言った。「申し訳ありません」と。
それでもよかった。お金がもらえるからだ。当時の自分にはお金儲けが至上の喜びでありそれを上回るものなんてなかった。それは大体今も同じだ。
しかし、レイは違うという。
やけにLEDの街灯がまぶしく見えた。
デリヘル嬢は決して楽な仕事ではない。どちらかと言えば接客業の中でも過酷な方だ。リスクだってまったくのゼロではない。
「分からないな」
僕は考えるのをやめた。目の前を白猫が通り過ぎた。白い毛並みが街灯に照らされ輝いている。僕にはそれがひどくまぶしく見えた。
僕にとって
僕は車内に戻った。そうして車の中でレイの帰りを待った。仕事は順調に進んでいるらしい。なぜかというと、何かあったら、レイから僕の携帯に連絡があるからだ。
お客さんもみんながみんな常識人ではない。何かあったら体も張る。それがデリヘルドライバーだ。かといって喧嘩はしないが。
「ガチャッ」
車のドアが不意に開いた。