デリヘルドライバー面接当日
「ここがデリバリーヘルスねるふか…」
僕の名は石田あきら。どこにでもいる無職でパチンコ中毒の普通の40歳だ。先日長年勤めていたパチ屋をクビになった。新型コロナによるリストラのせいだ。普通だけが取り柄の僕。特殊技能も資格も何もない。「男の風俗求人サイト」という求人サイトに載っているお店に電話を掛け、デリヘルに面接まで漕ぎ着けたのだが…。
「ここが第三新東京市か」
どちらかと言うと普通の歓楽街だ。仕事終わりのサラリーマン、何をしに街をほっつき歩いてるのか分からない女子高生、OLらの列が連なり、街にはネオンが点っている。そうこうしているうちに、住所通りの場所に着いた。真新しい訳ではないが、小綺麗な外観だった。
「君が石田あきら君。ようこそ。ねるふへ」
僕の面接が始まった。
面接開始
「なるほど。コロナの関係で首になった」
「そうだ。俺は何も悪くない。楽して金を稼ぎたいだけだ。楽して金を稼ぐためならお前とホモ達にもなれる」
「ふむ…」
俺は今面接を受けている。面接を担当しているのはこの店の店長のゲンドウという人だ。両手を顔の前で組み、机に肘を置いている。メガネが白く反射して、表情を伺い知ることはできない。そしてその隣には…。
「本当にあなたって変わっているわね。普通そういうことはオブラートに包んで話すものでしょ。普通の面接だったら絶対落とされるわよ」
ゲンドウという店長の隣には…。そう。僕が電話口で話した女の子、アスカがいた。アスカは酒焼け気味の声の割には可愛い女の子で、茶色のツインテール風の髪を揺らし、短めのスカートからはその瑞々しい太腿を露出していた。年齢は19か20といったところだろうか。
「まだホモとか言ってるし。あなたが受けているのはデリヘルドライバーの面接。さっきも話したでしょ」とアスカが言った。
そうだった。この面接はデリヘルドライバーの面接だとさっき説明されたばかりだった。デリヘルドライバーとは、デリヘル嬢をホテルなどへ送迎する仕事だという。
「そういや、あなた運転の経験はあるの?」
「俺はパチ屋の前はピザの配達のバイトをしていたことがある。運転はお手の物だ」と言った。
「自身満々に言うのね。あなたがコミュ力皆無なのは分かったわ。はぁ」。アスカが言葉を言い終わったその時だった。
「ふっ。…出撃」
突然この店の店長・ゲンドウが静かに口を動かした。
「え…この人は今来たばかりなのよ。それに出撃ってもしかして」
アスカが動揺している。一体何が起こるのだ?
おめでとう
「カッ、カッ、カッ」
薄暗い廊下に靴音だけが響いている。
「おい、これは一体どういうことだ」
僕は腕をアスカに引っ張られ、面接部屋を飛び出す格好で去ることになった。何が何だか分からない。僕はアスカにこの事態の説明を求めた。
「出撃って言う言葉はあの人のただの口癖だから気にしないで。業界用語でも何でもないわ。要は簡単。あなたを即採用し出勤の準備に取り掛かれ。ってことよ」とアスカが言った。
「ん?ということはつまり」。僕は状況がうまく飲み込めなかったが、何となく本意は分かったような気がした。
「そうよ。おめでとう。あなたは今日からうちのデリヘルドライバーよ」
デリヘルドライバーになって
「おい、こんなに簡単に仕事が決まっていいのか」。僕はアスカに説明を求めた。今まで僕が受けてきた面接と違いすぎる。質問だって2、3個しか受けてない。僕は多少混乱していた。
「いい?よく聞いて。この世界ではこれは普通のことなの。多少コミュ障でも、やる気と普通自動車運転免許さえあれば、デリヘルドライバーにはなれるってこと。そんなに不思議がる必要はないわ。ただゲンドウさんはあなたのこと結構気に入っていたみたいね」
気に入っていた? 全くそんな風には見えなかったが。とにもかくにも僕はデリヘルドライバーになった。無職を脱出した。それだけは間違いないようだった。
心臓が高鳴っているのが分かる。嬉しいんだきっと。
認められるということはそれが何であれ嬉しい。ついに仕事が決まったのだ。
喜ぶなというほうが無理だ。
「それじゃあ、あなたの上司をこれから紹介するわね」とアスカが言っていたが、僕は喜びの自慰行為をしに、トイレに駆け込んでいた。