コスプレデー
デリヘルドライバーとして勤務し、一週間が過ぎた。対人関係があまり得意じゃないといえる僕。しかし、ここでの一日はあっという間にすぎ、不思議とつらいという感じはしなかった。
仕事自体はそれほど難しくないが、やはり最初はいろいろ戸惑うことも多かった。普通の企業だったらいじわるな先輩とかに変にグチグチ言われていて、3日で辞めていただろう。
しかしここの先輩たちは、ズバっと間違いを指摘することはあるものの、その指示がとても的確でなんというかさっぱりしていた。まるでロボットに指令を出すように正確な指示だった。これはとても良かった。
デリヘルドライバーはデリヘル嬢と店の人以外とはほとんど会話しない。これも僕に向いていたのだと思う。
今日はこの店独自のイベントコスプレデーだ。なんでもデリバリーヘルスねるふでは月に一回、何らかのこのようなサービスイベントがあるらしい。
僕としてはコスプレなどしなくてもいいと思う。何も着なければいい。つまり素っ裸。それで良いと思うのだが。
「おーい、石田あきら」
「…なんだ」
「あれ、あまり元気なさそうじゃない、せっかくのコスプレデーだというのに」
待合室で読書していたところ、アスカが絡んできた。アスカはいつもTシャツ姿に短パンというラフな格好のときが多い。今日もそうで、ぴっちりTシャツからは胸の形がくっきり見え、僕としては目のやり場に困るものだった。
「あんたコスプレ好きでしょ?」
「…特に興味はない」
「えー、そうなんだ。なんだ。つまんないの。あんたみたいなおたくみたいな人はコスプレとか萌え萌え~みたいなポーズとか好きそうなのに」
アスカは少々がっかりしているように見えた。
「俺は別にコスプレに興味がない」
当然だ。俺が興味があるのはVtuberだけだ。そんなコスプレ女に入れ込むぐらいなら、いつものようにお気に入りのVtuberに投げ銭でもしたほうがましだ。
僕の名は石田あきら。どこにでもいる無職でパチンコ、Vtuber中毒の普通の40歳だ。パチ屋をクビになり、普通だけが取り柄の僕は「男の風俗求人サイト」という求人サイトに載っているお店に電話を掛け、デリヘルドライバーとして採用された。無事に一週間が経過したのだが…。
未知との遭遇
今日最初の仕事が飛び込んできた。僕がホテルまで送迎するのはレイだった。
レイのコスプレ姿だと…。
僕は勃起した。
車中で…
僕は先に車に乗り込み、レイを待った。
レイはどのようなコスプレ姿で来るのか。それはまったくわからない。ただ一つ分かることは、俺が今とても興奮しているということだ。
「クビになった前のドライバーの気持ちも分らんでもないな」
僕は感慨に浸っていた。
レイはどちらかというとおとなしいタイプだ。普段の口数も少ない。
その割に出るとこは出てるし、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。要するに、バランスがとてもいいのだ。なおかつ細身で色白だ。顔ももちろん可愛い。
儚げなイメージのある女性だった。
そしてそれは、自分の高校時代に好きだった野球部のマネージャーの姿と重なった。
正直なところ、そのマネージャーへのあこがれの思いを、僕がレイに抱いているというのは否定しようのない事実だ。
しかし、それだけじゃないはずだ。
僕は車の中から外の景色を見た。雑多な真夜中の繁華街。お世辞にもきれいとは言えない。
しかしこれが現実だ。人間はこの中で生きているのだ。僕も、そしてレイも。
後部座席のドアが開く音が聞こえた。
「遅くなってごめん」
レイがやってきた。僕は何気なく後部座席を見やった。