レイと僕
レイは純白のプラグスーツ姿だった。僕は時が止まったように見惚れてしまった。
「遅くなったわ。ごめんなさい」
「べ、別に何も問題はない」
レイに話しかけられ、僕は少々どもってしまった。当然だ。このプラグスーツというものはタイツのようにぴちっとしていて、体にフィットしている。レイのお尻、細いウエスト、そして細身の割にしっかりとした大きさのバストの形が一目で分かるのだ。
「それではい、いくぞ」
僕は車のシフトレバーをおろし、アクセルを踏み込んだ。
車は目的地のホテルに向け、しっかりと走り出した。
僕の名は石田あきら。どこにでもいる無職でパチンコ、Vtuber中毒でオタク気味の普通の40歳デリヘルドライバーだ。パチ屋をクビになった平凡な僕は「男の風俗求人サイト」という求人サイトに載っているお店に電話を掛け、デリヘルドライバーとなった。今日はコスプレデー。うちのデリ嬢・レイを送迎しているのだが…。
興奮とざわめき
「それはエ〇ァンゲリオンというやつのコスプレか」
「そうみたい。私はよく知らないけど」
エ〇ァンゲリオン。それは1990年代に放送されたテレビアニメで社会現象が巻き起こった作品だ。放送開始から20年以上経過しているが、今なお根強いファンがいる。
いわゆるロボットアニメなのだが、そんなカテゴリーに一括りされるのも違和感があるほど作りこまれたストーリー、先進的なキャラデザインで話題になった。当時まだ子供向けの印象が強かったアニメを一躍、一般的な領域まで押し上げた作品だ。
そのムーブメントは今でいう鬼〇の刃ブームに似てはいる。しかし、どちらかというとこれまでの王道をなぞった物語である鬼〇の刃と違い、オリジナリティという面で群を抜いている。
ロボットアニメの歴史はエ〇ァンゲリオン以前とそれ以降で分けられるといっても過言ではないほど、のちのアニメ界にインパクトを残した。
「でもこれ、ピチッとしすぎていて動きずらいの」
レイのコスプレはそのエ〇ァンゲリオンの主役級キャラクター「アヤ〇ミ」のコスプレだ。そして着ている衣装はプラグスーツといって、戦闘服のようなものだ。ただロボットに乗るための服なので、鎧のような重厚さはない。全身タイツのほうが表現としては正しいだろう
「特に胸の部分がきつくて」
レイが衣装を整えるたび、胸の部分が上下に揺れるのがバックミラー越しにはっきりとわかって、僕は勃起した。
ホテルに到着…
「その衣装とても似合っている」
「ありがとう」
お世辞ではない。本心でそう思ったのだ。
車はこの町で一番大きな橋を越え、桜の木々が植えられている大通りを順調に下っている。
僕はふと、ずっと気になっていたことを聞いてみようかと思った。
「レイ、一つきいてもいいか」
レイはいいけど、どうしたの。と外の景色を見ながら言った。
「レイはどうしてこの仕事を選んだのだ」
雨が降ってきた。最初は大粒のしずくが窓を打ち、そして徐々に雨音が激しくなっていった。
僕はワイパーをつけた。
その瞬間、感情のない瞳をしたレイの表情がバックミラー越しに見えた。
「選んだんじゃないの」
レイはつぶやいた。
「私は3人目だから」
車はホテルにつき、レイを丁重に降ろした。
雨が強くなってきていたので、僕は車にいつも積んでいる傘を広げて、レイに渡した。
その間、僕はレイのあの言葉の続きを待ったが、特に何もなかった。どうしたというんだ。
「3人目か…」
意味が分からなかった。
僕はレイを待つ間暇だったので、レイの胸を思い出し、射精した。
だからなんだということはない。
僕はいつも通りで、レイもまたいつも通りだった。それだけなのだ。