デリヘルドライバーの打ち上げ
僕とミサトさんは駅前へ移動した。
ここらへんのエリアは繁華街となっており、居酒屋はもちろんのこと風俗店やラブホテルも多い。
その中にある適当な居酒屋に僕たちは入った。
「安いお店ですけど、いいわよね?」
「特に問題はない」
借金まみれの僕としてはとてもありがたかった。一日の稼ぎが飲みで消えるなどたまったことではない。僕たち二人は駅のガード下付近に軒を連ねる大衆居酒屋の暖簾をくぐった。
僕の名は石田あきら。どこにでもいる無職でパチンコ中毒の普通の40歳だ。長年勤めていたパチ屋をクビになった普通だけが取り柄の僕は「男の風俗求人サイト」という求人サイトに載っているお店に電話を掛け、第3新東京市にあるお店のデリヘルドライバーとして採用された。初仕事を終え、先輩に連れられ飲み屋に入ったのだが…。
「前のドライバーのこと、女の子も言ってましたよ」
ドン。
「やっぱり、ルール違反はダメよ。クビも当然よね」
ビールを飲んだミサトさんは豪快に酔っぱらっていた。なかなかの酒乱かもしれない。
「たく。まぁでも、あれだけ可愛い子が在籍しているデリヘルとなれば、男性なら手を出したくなる気持ちにもなるわよね」
そう言って、ミサトさんは目を細め、僕の方に顔を向けた。悪戯っぽい笑みをたたえて。
「俺は手を出すことはしない。確かにレイという女の子は肌が白く透明感があって魅力的だったことは否定しない。口数が少なく儚げな雰囲気も良い。声質も透明感があり文句のつけようがない。中学、高校ではかなりモテて、クラスのマドンナ的存在だったろう。それも否定しない。俺も例えばお尻枕をお願いされたとしたら否定できないだろうし、それに多くの男も…」
「はいはい」
「もう分かったから、とりあえずストップ」
僕は言った。
「分かってくれたのなら良い」
僕はビールをぐいっと飲みほした。
「分かったのはあなたが変人だということだけど。おたくのように早口でまくし立てる癖は直したほうが良いわよ?」
「俺は早口でまくし立てたりはしていない」
「はぁ。まぁいいけど。あなたって変態だけど度胸なさそうだから逆に安心できるわね。彼女いたことないでしょ?」
ミサトの指摘は半分外れで半分当たっていた。僕は確かに生身の女の子と付き合ったことはない。しかしヴァーチャルの世界には彼女と呼べる存在は多数いるのだ。Vtuberという。
「まぁ、半分外れで半分当たりってところだ」
ミサトさんはため息を付きながら言った。
「アスカの言う通り、あなたって本当に変わっているわ」
意味深な言葉
居酒屋を出るころ、あたりはすっかり静まり返っていた。僕はミサトさんから辞めたドライバーのこと、お店の人たちのこと、たわいもないうわさ話などを聞いた。まぁ、僕はミサトさんの豊満なバストを注視していたので、あまり話はきいていなかったが。
ほとんど会社の上司が部下に話すようなありふれた内容だった。それらの話を聞いて、僕のデリヘルドライバーについての士気が下がるようなことはなかったが、ミサトさんが良い人だということははっきり分かった。
「奢ってくれて感謝する」
「いいっていいって。先輩なんだからこれくらい当然よ」
夜の街の風は冷たい。僕たちは駅に向かって歩いた。
「確かにあなたの性格じゃ普通の仕事は無理よね」
「どういうことだ」
「しゃべり方も変だし、変態だし」
「ずいぶんな言い様だな」
「あはは。でも逆にデリヘルドライバーには向いているかもしれないわね」
「え?」
僕は少し驚いてミサトさんの顔を見た。
「社会性なんてそんないらないもの。女の子と最低限のコミュニケーションが取れれば、問題なし。あなた天職かもね」