送迎中に… デリヘル・ドライバー日記12

送迎中に… デリヘル・ドライバー日記12

2021/04/19
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心に決めたこと

俺は思った。レイにきちんと謝ろうと。それこそが石田あきら40歳ができる最良にして最大の行いなのだと。

目の前の交差点を車が次から次へと通り過ぎていく。少し耳障りなエンジン音が鳴る車内。薄暗いそのコックピット席(運転席)に座りながら、俺は決意した。

今日もレイは出番だった。レイは人気嬢だから、よほどのことがない限り、今日も俺の車に乗る機会があるだろう。チャンスはそのときだ。きちんと自分の思いを伝えることができればいいが。俺は少しだけ弱気になった。

俺はこう見えて、いうほどコミュ力が高いほうではない。俗にいう陰キャだ。陰のものなのだ。高校時代も周りの同級生が彼女とイチャイチャしている中、俺はといえばせっせと自宅にこもり自家発電に文字通り精を出していた。色白の野球部の1年生マネのことを想いながら。そのときのことは今でもはっきりと覚えている。借りた借金の金額はすぐに忘れるのにだ。

僕は雨に濡れて怪しく黒光りする車に乗りながら、どことなくレイを待っていた。

僕の名は石田あきら。どこにでもいるキモオタ40歳デリヘルドライバーだ。パチ屋をクビになった。そのため「男の風俗求人サイト」という求人サイトに載っているお店に電話し、見事デリヘルドライバーとなった。レイにデリヘル嬢になった経緯を質問する無礼を働いてしまった。謝ることができればいいのだが。

行動

過去の話を詮索するな。そうVtuber・イカリユイはいっていた。女の子にはいろんな過去があるのだと。正直俺はよく分かっていない。しかし聞かない方がいい気がした。こういう勧は鋭いのだ。まぁもっとももう遅いのかもしれんが。

黒光りする車に腰掛けもう30分。今日はまだ誰も出てくる気配がない。けれどこの店は人気店とまではいかないけど根強いファンがいる。もうすぐ誰か来るはずだ。

「夜のお仕事をしている女の子と仲良くなる方法はね。簡単なことだよ。とっても難しいことだけど」

ユイはこうとも言った。それは頭の出来が悪い俺にはよく分からないことだった。

ラジオをつけてみた。雨音に交じりながら、ノイズがかったスポーツニュースが流れてくる。

10億円で日本の古巣球団に戻ってきた元メジャーリーガーが打たれたらしい。ざまぁみろと思った。何が10億だ。くだらない。そんな金があるなら俺は200万円の借金も返せる。焼き鳥もたくさん食べれる。ビールだって飲める。デリヘルだって生き放題だ。俺は…。

10億円が手に入ったら店の女の子たちはみんな辞めるのだろうか。そりゃ辞めるよな。ははは。乾いた笑いが喉から出かかったそのときだった。

「ごめん。今からいいかな」

レイだった。

驚き

「今さ、野球のラジオ聞いてたんだよ。ほら、あー君。負けたんだってさ」

「あー君?」

「レイは知らないの?あー君」

「知らない」

レイは野球選手をまったく知らないらしい。いや、女の子だもんなそりゃそうか。と思った。

車は二車線の道路に入ったところでトラックの水しぶきを浴びた。たまらずワイパーをかけ、なんともなかったがこういうのはとにかくイライラする。しかし俺はプロのデリヘルドライバー。デリ嬢を乗せているときは顔に出ないようにしなければならない。そう教わった。しかし、これがなかなか難しい。今日はいつもよりは頑張れたほうだ。

「少し怖かったね」とレイが言った。だから俺は今日ならレイとうまく話せそうな気がすると少し思った。

「あー君の年俸いくらか知ってる?10億円だぜ。10億。俺たちが時給1000円とかで働いているのにさ、嫌になるよねまったく」

なんか今日はうまく舌が回る。どうしたというのだろう。

10億なんてもらったら店をやめるよね。と軽く聞いたつもりだった。

レイはやめないと言った。

「条件:やる気!月収60万円マジで稼ぐ」

つづく

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